ESG initiatives Environment ESGに関する取り組み(環境)

気候変動

排出削減目標

排出削減目標

重要課題(マテリアリティ)解決に向けた行動計画・目標

  • UURでは、「エネルギー消費・管理、再生可能エネルギーの活用」をマテリアリティとして特定し、以下の行動目標を設定しています。
  • 2030年までにポートフォリオのスコープ1及びスコープ2のGHG総排出量を42%削減(2021年対比)
  • 2050年までにバリューチェーン(スコープ3)を含むGHG総排出量をネットゼロ

SBTi(注)認定取得

上記の目標のうち「2030年までにポートフォリオのスコープ1及びスコープ2のGHG総排出量を42%削減(2021年対比)」については「パリ協定」に準じて「世界の気温上昇を産業革命以前より2℃を十分に下回る水準に加え、1.5℃に抑えることを目指す」ための科学的根拠に基づくものとして、SBTiの認証を得ています。

  • (注)Science Based Targets initiativeの略。CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、UNGC(国連グローバル・コンパクト)、WRI(世界資源研究所)、WWF(世界自然保護基金)により2015年に設立された国際的な気候変動イニシアティブ。SBTiより認定を取得するには、「パリ協定(気候変動による世界の平均気温の上昇を、産業革命以前よりも最低でも2℃未満にする)」が求める水準と整合させたGHG排出量削減目標を設定する必要があります。

CRREM(注1)を活用した移行リスク分析

また、「2050年までにバリューチェーン(スコープ3)を含むGHG総排出量をネットゼロ」を設定する際には、移行リスクの評価・分析ツールであるCRREMを活用したシナリオ分析を行っています。
シナリオ分析の結果、省エネ(高効率設備への投資、運用改善)及び再エネ導入の取り組みにより、2030年代後半までは1.5℃シナリオに対応可能である一方、2030年代後半以降は1.5℃パスウェイ(炭素削減経路)を超過するリスクを確認しています。そのため、当面は省エネ及び再エネ対策を着実に進め、社会・経済・技術、各方面の動向を見据えつつ、GHG排出量の更なる削減策の検討を進めて参ります。

CRREM1.5℃パスウェイ(日本)
CRREM
  • (注1)Carbon Risk Real Estate Monitorの略。一般的にクレムと呼ぶ。欧州の研究機関等が開発した商業用不動産に関する気候変動の移行リスクの評価・モニタリングツール。パリ協定の2℃及び1.5℃目標に整合するGHG排出量の2050年までのパスウェイを算出し、公表しています。
  • (注2)本投資法人のポートフォリオを構成する商業施設、オフィスビル、ホテル、住居、物流施設等の各用途に関するCRREMの規定に基づき分析しています。

省エネ法に基づく努力目標

  • UURは、上記マテリアリティに設定する目標とは別に、サステナビリティ目標を定め、保有物件でのエネルギー使用量と延床面積等を勘案して算出されるエネルギー原単位について、省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)で国が求める努力目標「5年平均原単位年1%以上の低減」の達成に努めています。
  • 国が実施・公表する2022年の省エネ法に基づく経済産業省の事業クラス分け制度では、8年連続で最高位「S」ランクの評価を獲得、J-REITの58投資法人中、8年連続は4投資法人のみです(2023年12月末時点)。

サステナビリティ目標

温室効果ガス排出量が相当程度大きいとされる大規模施設の所有者として、所有する施設でのエネルギー使用量と延床面積等を勘案して算出される「エネルギー原単位」を、5年間平均で年1%削減することを目標としている。削減するための具体的な方策としては、空調更新による高効率化、照明等更新時の高効率機器の採用等を、施設の状況に応じて適用していく方針である。

株式会社ディ・エフ・エフ

TCFD提言に基づく情報開示

TCFD提言に基づく情報開示

気候変動に対する現状認識

昨今、世界では気候変動をはじめとする環境課題が深刻化しています。日本国内でも異常気象による大規模な自然災害が頻発し、経済・社会活動に大きな影響をもたらしています。国際社会が協調して地球規模の気候変動に対応すべく、パリ協定が2015年「国連気候変動枠組み条約国会議(COP)」で合意されました。パリ協定の枠組みの下、温室効果ガス(GHG)排出量削減に向けて民間セクターが果たすべき役割への期待とニーズが高まっています。
MRAでは、今や気候変動への対応はUURのポートフォリオ運用において看過できない重要課題であると考えています。気候変動に伴い生ずるリスクや機会を十分に認識し、広範にわたる全てのステークホルダーの皆様にとって持続可能な社会の実現に向けて、不動産投資運用を通じた気候変動への取組みを継続的に推進してまいります。

気候変動に関する方針

UUR及びMRAでは、気候変動に対する現状認識を踏まえ、2012年に策定した「環境方針」を改め、2022年に「サステナビリティ方針」を策定しました。環境、社会及び経済における課題解決又は新しい価値の創造への取組みを実践するための指針として定めた「サステナビリティ方針」では、気候変動への対応、環境負荷の低減と循環型社会の実現、持続可能な都市の実現及び地域社会への貢献、人権の尊重のほか、ステークホルダーとの連携・協働や社内体制の構築等についての取組み方針も明記しています。
特に、気候変動への対応については、持続可能性及び資源効率性の観点から資源・エネルギーの効率的な利用を積極的に推進し、温室効果ガスの削減に努めるとともに、環境に配慮した技術やシステムの導入等により脱炭素社会の実現に努めていくことを掲げています。

TCFD提言への賛同・気候関連の情報開示

MRAは、気候関連財務情報開示の重要性を認識し、2022年1月にTCFD提言への賛同の表明を行いました。
また今般、MRAに各部署代表メンバーによる社内横断チームを組成し、UURのポートフォリオに関してTCFD提言に沿った気候リスク・機会に関するシナリオ分析を実施しました。
TCFDのフレームワークに沿った気候関連の情報開示は以下のとおりです。

<TCFD提言における推奨開示項目>

項目 概要
ガバナンス 気候関連リスク及び機会に関する組織のガバナンス
戦略 組織の事業・戦略・財務計画に対する気候関連リスク及び機会に関する実際の影響及び潜在的影響(シナリオ分析)
リスク管理 気候関連リスクを識別・評価・管理するために用いるプロセス
指標と目標 気候関連リスク及び機会を評価・管理するのに使用する指標と目標

(1) ガバナンス

体制概要

MRAでは、気候変動への対応を含むサステナビリティ推進活動の遂行を目的として「サステナビリティ推進規程」を定めています。同規程に基づいた以下体制により、サステナビリティ推進活動を戦略的・組織的に実践していきます。

機関 概要
取締役会 サステナビリティ方針の決定、サステナビリティ推進活動に関する監督
サステナビリティ
最高責任者
  • 代表取締役 社長執行役員
  • MRAのサステナビリティ推進活動全般に関する責任者
サステナビリティ
執行責任者
  • チーフ・インベストメント・オフィサー(CIO)
  • サステナビリティ推進活動の遂行に関する責任者
サステナビリティ
委員会
  • サステナビリティ推進活動の常設機関
  • サステナビリティ推進責任者を委員長、サステナビリティ最高責任者等を委員に構成
  • 年に4回以上開催
  • サステナビリティ推進活動に関する課題及び目標項目(KPI)の進捗状況の共有、各種施策を検討し、立案

また、サステナビリティ推進責任者から年間のサステナビリティ推進活動の実績報告(①マテリアリティ報告は年1回以上、②活動状況報告は年4回以上)を受け、この報告に基づいてサステナビリティ推進活動に関する継続的なモニタリングを行います。

「サステナビリティ委員会」は、組織横断的にESG課題への解決を図るべく、2013年に設置されております。意思決定スピードを重視するため、MRAの経営陣(代表取締役 社長執行役員、CIO、CFO)も構成メンバーとなっています。サステナビリティ委員会では主に以下事項の審議・報告を行います。

  • 重要課題(マテリアリティ)に対する行動計画の策定
  • 実施事項の状況確認、実績報告、改善策の検討
  • 気候変動におけるリスクと機会のモニタリング
  • ESGに関連する開示内容の共有
  • ステークホルダーとの協働にかかる状況確認、実績報告

上記の他、サステナビリティ最高責任者の決定により、サステナビリティ推進活動に関する委員会、分科会を設け、必要な事項の審議、報告、施策立案、実行を行わせることができる体制としています。特に、UURの保有物件におけるエネルギー消費量の削減を図るため、MRA内のタスクフォースとして、「省エネ推進委員会」及び「省エネ推進分科会」を発足させ、エネルギー使用の合理化に努めています。

MRAでの更なるESG意識向上、UURにおける実践的なESG課題への取組みの加速を企図し、サステナビリティ委員会のメンバーに全部署の部長を加え、また、資産運用部にESG担当者制を導入し、4つの資産運用部に跨るESG横断チームを結成し、実務レベルでの推進体制の強化も図っています。

(2) 戦略

MRAは、将来の気候変動がUURのポートフォリオへもたらす影響について、TCFD提言に沿ってシナリオ分析を実施し、2050年の世界観を想定しながら、2030年時点における外部環境の変化と、事業リスクおよび機会への対応を検討しました。

シナリオの設定、及び検討年数

TCFD提言では複数の温暖化シナリオに基づく検討を推奨しており、MRAでは現行シナリオ(3~4℃シナリオ)と移行シナリオ(1.5℃シナリオ)における気候関連のリスクと機会の影響を評価しました。
それぞれのシナリオの概要や世界観等は以下の通りです。

現行シナリオ(3~4℃シナリオ) 移行シナリオ(1.5℃シナリオ)
概要 現状を上回る排出量削減対策が取られず、今世紀末の平均気温の上昇が最大で3~4℃となる世界を想定 今世紀末の平均気温の上昇を1.5℃に抑えるために、脱炭素化の取り組みが進展される世界を想定
シナリオの世界観
  • 現在想定されている以外に政策導入や規制強化が行われない
  • 一部では、経済成長に伴い、温室効果ガスの排出量が増加
  • 気温上昇に伴い、極端に暑い日や大雨などの自然災害が激甚化
  • 気候変動の緩和に向けた政策導入や規制強化が実施される
  • 温室効果ガスの排出量が減少し、2050年までに世界全体の実質排出量がゼロとなる
  • 気温上昇により海面上昇や気候パターンの変化が生じるが、変化は他シナリオよりも抑えられる
主な参照シナリオ
  • IEA Stated Polices Scenario (STEPS)
  • IPCC RCP8.5 (SSP5-8.5)
  • IEA Sustainable Development Scenario (SDS)
  • IEA Net Zero Emission Scenario by 2050 case (NZE)
  • IPCC RCP 2.6 (SSP1-2.6)
分析対象事業範囲の特定

MRAが運用を受託するUURの資産の保有・運用部分を主な分析対象とし、資産の取得・売却時及び資金調達に与える影響についても念頭に置きながら、シナリオ分析を実施しました。

分析対象事業範囲の特定
リスク項目の特定

TCFD提言では、気候関連リスクを物理的リスク・移行リスクの2つのカテゴリに分類しております。MRAのシナリオ分析では本分類に基づき、現行シナリオにおいては物理的リスクを、移行シナリオにおいては移行リスクの洗い出しを行い、UURのポートフォリオとの関連性が高いと想定される主要なリスク項目を特定しました。
尚、TCFDの情報開示において、気候関連リスクは以下の通りに整理されるのが一般的となっています。

<リスクの分類>

気候関連リスク 物理的リスク 急性リスク
慢性リスク
移行リスク 政策・法規制リスク
技術リスク
市場リスク
評判リスク

<気候関連リスクの分類>

物理的リスク 地球温暖化や気候変動に起因するリスク
移行リスク 低炭素経済への移行に伴う法的・技術的・市場的等のリスク

<物理的リスクの分類>

急性リスク 異常気象や自然災害の激甚化等による直接的・間接的リスク
慢性リスク 平均気温の上昇、海水面の上昇、気候や降雨パターン変動等長期的変化によるリスク

<移行リスクの分類>

政策・法規制リスク 気候変動の悪影響の原因と緩和策、適応策の促進に関連するリスク
技術リスク エネルギー効率の向上と低炭素技術の研究開発と導入に関連するリスク
市場リスク 製品・サービスの需要と供給の変化に関するリスク
評判リスク 低炭素経済への移行に対するレピュテーションに関するリスク

現行シナリオ(4℃シナリオ)においては、現状を上回る温室効果ガスの排出削減策や法規制等が取られない想定の下、主要な気候関連のリスクとして、「自然災害の頻発・激甚化」や「平均気温の上昇」が挙げられます。
移行シナリオ(1.5℃シナリオ)においては、温室効果ガス排出規制が強化され、不動産オーナーに対する環境性能改善が現状以上に求められるほか、人々の環境意識の高まりにより、環境性能が低い建物への需要が相対的に低下していくことが主要な気候関連のリスクとして想定されます。

重要度評価の実施方法

シナリオ毎に、気候関連のリスクと機会がUURの事業に与える財務的な影響を洗い出し、各リスク・機会の要因となり得る事象の「発生度」と、UURのポートフォリオにおいて想定されるコスト等の「影響度」から、リスクと機会の重要度を評価しました。

影響度

<現行シナリオ:リスク>

現行シナリオ:リスク

<現行シナリオ:機会>

現行シナリオ:機会

<移行シナリオ:リスク>

移行シナリオ:リスク

<移行シナリオ:機会>

移行シナリオ:機会
シナリオ分析結果

重要度評価結果を基に、各シナリオにおいて重要度の高いリスク・機会を抽出し、UURのポートフォリオに与える影響の大きい項目を特定しました。

<現行シナリオ>

こちらの表は横にスクロールしてご覧いただけます。
リスク
/機会
属性 気象関連事象 時間的範囲 事業への影響 主な財務的影響 影響度
リスク 慢性 平均気温の上昇 中~長期 消費動向の変化
外出・移動の抑制
  • テナントの稼働率低下・
    売上減少に伴う賃料収入の減少
  • リモートワークの普及によるオフィスの需要減
  • ホテル需要の高い夏休みシーズンの観光需要減に伴う、
    売上に連動した賃料収入の減少・資産価値低下
熱帯の伝染病の蔓延
  • 衛生面・安全面向上にかかる費用の増加
  • テレワーク推進・観光需要低減による
    稼働率の低下、賃料収入の減少
急性 大雨の頻発、
激甚化
短~長期 洪水による浸水被害
  • 浸水被害による修繕費の発生、賃料収入の減少
  • 洪水リスクの増加による
    賃料収入の減少・資産価値の低下
  • 電気設備の移設工事費用の発生
敷地内・施設内の
漏水が頻発
  • 漏水発生時の修繕費の増加
熱帯低気圧の増加、
激甚化
短~長期 暴風による建物損壊
  • 建物損壊時の修繕費の発生
  • 損害保険料の上昇

【要約】

  • 慢性リスクとして、「平均気温の上昇」により、消費動向の変化や外出・移動抑制、熱帯の伝染病の蔓延が発生した場合には、テナント売上の減少や稼働率・賃料収入の減少を招くことが想定されます。
    ただし、UURの保有資産は複数の用途に分散されており、例えばテナントの売上減少やオフィス賃料の減少等の用途毎に想定される被害が、他の用途に波及して影響を与えるものではないため、投資法人の全体の収益に与える影響は限定的であると想定しています。
  • 急性リスクとして、「大雨の頻発、激甚化」や「熱帯低気圧の増加、激甚化」による洪水・暴風等の被害が発生した場合、沿岸部の物件を中心に、修繕費の増加や賃料収入の減少等による被害が想定されます。
    これらの被害が想定される物件は自治体のハザードマップ等を通じて把握済みであり、防潮板の設置等、既に必要な対策を講じています。
    MRAは下表の通り、2023年11月末時点でのUURのポートフォリオのおよそ21%(床面積ベース)が、洪水リスクを有しているものと認識しています。該当物件は全体の保有資産のうち一部に限定され、該当物件の地域も全国に広く分布していることから、特定地域の被害によって投資法人の全体の収益に与える影響は限定的であると想定しています。
    ただし、今後洪水リスクを有するエリア自体が増える可能性もあります。
  • 現行シナリオにおける機会として、「平均気温の上昇」によるEC利用増に伴う物流施設の賃料収入増加等を議論しましたが、投資法人の収益に大きな影響を与えるような事象は確認されませんでした。

<移行シナリオ>

こちらの表は横にスクロールしてご覧いただけます。
リスク
/機会
属性 気象関連事象 時間的範囲 事業への影響 主な財務的影響 影響度
リスク 政策 GHG排出規制強化

(省エネ対応、
不動産オーナーに
対する環境政策)
中~長期 既存建物への省エネ性能の
高い設備導入の義務化
  • 現存設備の除却損の計上、
    高省エネ性能設備設置費用の増加
  • 規制対策にかかる社内対応コストの増加
環境性能の低い賃貸不動産への
厳しい措置(賃貸借禁止等)
  • 資産価値低下による減損損失計上
各種規制未対応による法的措置・
訴訟等の発生
  • 規制未対応による罰金、訴訟費用、
    テナントへの補償費用等の発生
技術 建築に関する
低炭素技術への移行
中~長期 環境性能が低い建物の陳腐化
  • 現存設備の早期償却、除却
  • 低炭素技術への移行のためのコスト増加
市場・
評判
人々の環境意識の高まり 中~長期 環境性能が低い建物の需要低下
  • 競争力低下(空室長期化・賃貸借条件悪化)
    による賃料収入の減少
環境性能が高い不動産への
投資需要増加
中~長期 環境性能が高い不動産の取得環境激化
  • 環境性能が低い物件の資産価値低下、
    売却損の計上

【要約】

  • 政策リスクとして、省エネ対応や不動産オーナーに対する環境政策などの「温室効果ガス(GHG)排出規制の強化」により、設備入替費用の増加や規制対応コストの発生が想定されます。
  • 技術リスクとして、「建築に関する低炭素技術への移行」により、環境性能が低い建物の陳腐化が生じ、現存設備の早期償却や除却が必要になるケースが想定されます。
  • 市場・評判リスクとして、「人々の環境意識の高まり」やそれに伴う「環境性能が高い不動産への投資需要の増加」により、環境性能が低い建物の競争力低下による賃料収入の減少や売却損の計上が想定されます。
  • ただし、これらのリスクは、グローバルにおける脱炭素の取り組みのなかで中長期的に段階的に発生していくものと考えられるため、短期的に直ちに資産価値が大きく低下するようなリスクは想定しておりません。
    また、UURの保有資産のうち環境認証を取得している物件は複数の用途のアセットに分散されており(「(4)指標と目標」参照)、仮に特定の用途の物件において先行的に政策・規制の導入や市場・評判の変化が生じても、投資法人の全体の収益に与える影響は限定的であると想定しています。
  • また、移行シナリオにおける機会として、「人々の環境意識の高まり」による環境認証取得物件の賃料収入の増加や、「再生可能エネルギーの普及」に向けた太陽光パネルの設置のための屋根貸しによる賃料収入の増加等を検討したものの、現時点では、投資法人の収益に大きな影響を与えるような事象は確認されませんでした。ただし、政策・技術動向を注視しながら、今後も機会獲得につながる戦略の検討・実行を継続していきます。
重要度が高いリスクへの対応策検討

シナリオ分析により、UURのポートフォリオにとって重要度が高いと評価したリスクについて、リスクを軽減するための、現時点で考えられる対応策を以下の通り検討いたしました。

<現行シナリオ>

気候関連の事象と想定されるリスク 現時点で考えられる対応策(案)
大雨の頻発、激甚化
  • 洪水による浸水被害に伴う修繕費増、賃料収入減
  • 浸水リスクが高い物件を特定の上、保険の適用範囲を変更(対応済)
  • 浸水想定物件における、防潮板等の浸水対策を実施
  • 電気設備・機械室等の浸水想定階以上への設置・移設
  • BCP対応マニュアルの策定・防災訓練等の徹底
  • 今後、浸水リスクが高い地域・物件の取得・売却について慎重に検討
  • 保有物件の浸水による設備故障、ライフライン等の機能停止
平均気温の上昇
  • 消費動向の変化、外出・移動抑制に伴うテナント賃料収入減
  • 環境変化に応じたテナントの入れ替え、用途転換の検討
  • 熱帯の伝染病の蔓延に伴う衛生・安全面向上にかかる費用増
  • 商業施設・オフィス・ホテル物件への衛生対策の設備投資(抗菌仕様、換気能力の向上等)の実施
  • 感染症対策ガイドラインの順守
熱帯低気圧の増加、激甚化
  • 暴風雨による建物損壊に伴うハザードマップ該当物件の修繕費増、損害保険料の増加等
  • 保険の適用範囲を変更(対応済)
  • 外壁・屋上の防水対策の質的向上
  • BCP対応マニュアルの策定・防災訓練等の徹底

現行シナリオにおいては、気候災害により発生する資産に対する物理的損害、それに伴う維持改修費用の増加といった財務的影響のほか、テナントの選好にも影響を与えうると認識しています。災害発生時には、気候災害リスクがテナントにおいて強く認識され、影響を受けるエリアや建物が忌避される可能性があります。一方で、気候災害リスクに十分備えた不動産であるとテナントから評価されれば、長期的な安定稼働を期待できます。こうした認識の下、MRAでは物理的リスクの低減と収益安定化の機会の実現を図るため、UUR保有物件における災害対策の充実に取り組んでいます。

<移行シナリオ>

気候関連の事象と想定されるリスク 現時点で考えられる対応策(案)
GHG排出規制強化
  • 既存建物への省エネ性能の高い設備導入の義務化に伴う、設備設置費用増等
  • グリーンリースの活用による促進、費用負担の軽減
  • 環境性能の低い賃貸不動産への厳しい措置に伴う、資産価値低下
  • 適切な設備投資・メンテナンスによる環境性能の向上
  • アセットの入れ替えの検討
  • 各種規制未対応による法的措置・訴訟等の発生に伴う、罰金・訴訟費用・テナントへの補償等の発生
  • 法令・規制順守の徹底
  • 長期修繕計画の策定、取り組み内容の積極的な開示
建築に関する低炭素技術への移行
  • 環境性能が劣る建物の陳腐化に伴う現存設備の早期償却・除却等
  • 適切な設備投資・メンテナンスによる環境性能の向上
  • アセットの入れ替えの検討
人々の環境意識の高まり
  • 環境性能が低い建物の需要低下に伴う、競争力低下による賃料収入減
  • 適切な設備投資・メンテナンスによる環境性能の向上
  • 環境認証取得物件の増加
  • アセットの入れ替えの検討
  • 取り組み内容の積極的な開示
環境性能が高い不動産への投資需要増
  • 環境性能高物件の取得環境激化に伴う、環境性能低物件の資産価値減

日本において、既に建築物に対してそのエネルギー効率性や炭素排出量に対する政府等による法規制が存在していますが、現時点ではUURの保有資産において著しい規制対応コストは生じておりません。しかし今後、パリ協定目標の達成のために政府がその規制レベルを引き上げる政策や炭素税を導入した場合、エネルギーコストの上昇や、規制に対応するための設備負担等が増加する可能性があります。
また、低炭素・脱炭素社会への移行が進んだ際には、テナントの選好、投資家の選好、社会からの評判等において、UURの保有資産のグリーン性が一層考慮され、結果として物件の収益性、資金調達等に影響を与える可能性があります。現時点でも、環境認証取得物件に対して賃料プレミアムが存在していることを示す調査結果があり、また、グリーンボンド/グリーンローン等の資金調達手法が普及しつつあります。将来的には、こうした「グリーン・プレミアム」だけでなく、グリーン性が乏しい不動産に対する「ブラウン・ディスカウント」が発生するリスクも考えられます。
MRAではこうした認識の下、UURのポートフォリオの運用段階において、エネルギー消費状況等の環境負荷の管理や効率化に向けた取り組みと、環境認証の取得によるポートフォリオのグリーン化を進めており、規制リスクによる財務的影響の低減と、ESGに感度の高いテナント・投資家からの評価向上を図っています。特に、環境負荷の軽減は建物運用コストの削減という直接的な財務的メリットをもたらすビジネス機会になると認識しています。

(3) リスク管理

MRAにおけるリスク管理の位置付け

MRAでは、資産運用会社全体のリスク管理の基本的事項を定めたリスク管理規程において、リスク管理の基本方針を定めており、リスク管理を経営の最重要課題の一つと位置付けています。また、同規程において、資産運用業務を行うに際して管理すべきリスクを、

  1. 不動産投資リスク
  2. 事務リスク
  3. システムリスク
  4. その他のリスク

に大別しています。

リスクの特定・マネジメントのプロセス

これらのリスクは、リスク管理細則に従った分類をすることで、リスクの細目を特定しています。また、同細則において、業務プロセスに潜むリスクの見直しを定期的に行い、リスク及び統制活動を把握、認識することを定めています。

リスク及び統制活動の把握又は認識には、リスクコントロールマトリクス(統制ポイント表)を用いて、以下の方法により行っています。

  1. MRA各部署が業務プロセスを文書化し、定期的に業務プロセスの見直しを実施
  2. 上記業務プロセスの見直しと共に、各業務プロセスに潜むリスク、当該各業務プロセスにおける統制活動の有無、そのリスクの大小の見直しを実施
  3. リスク管理の見直し方法の詳細は、当該見直しの際に、各部長が必要に応じて、CIO、CFO又はチーフ・コンプライアンスオフィサー(CCO)の承諾を得て、経営環境などを勘案し、適切な方法を定める。
内部監査による検証

内部監査実施部門は、リスク管理規程に則って行われるリスク管理について、その適切性と有効性について定期的に検証を行い、MRA代表取締役 社長執行役員及び取締役会に対して報告を行うことが義務付けられています。

(4) 指標と目標

温室効果ガス(GHG)排出量

UUR及びMRAは「エネルギー消費・管理、再生可能エネルギーの活用」を重要課題(マテリアリティ)として特定し、中長期行動目標として、パリ協定に倣い、「①2030年までにポートフォリオのスコープ1及びスコープ2のGHG総排出量を42%削減(2021年対比)②2050年までにバリューチェーン(スコープ3)を含むGHG総排出量をネットゼロにする。」を掲げています。
これと並行して、サステナビリティ目標を定め、保有物件でのエネルギー使用量と延床面積等を勘案して算出されるエネルギー単位について、省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)で国が求める努力目標「5年平均原単位1%以上の低減」の達成に努めています。

温室効果ガス削減の具体的な方策としては、エネルギー専門家による省エネ診断、空調更新による高効率化、照明のLED化等を、施設の状況に応じて適応していくほか、テナントとの賃貸借契約にグリーンリース条項の追加、再生可能エネルギーへの切替え等を物件の特性に応じて継続的に行っていきます。

保有資産における環境パフォーマンス

気候関連リスク・機会をマネジメントするための指標の一つとして、ポートフォリオにおける環境認証取得カバー率を掲げています。2024年までに延床面積ベース80%とすることを中期目標として設定し、環境認証の新規取得のほか、有効期限を迎えた物件の認証再取得を継続的に取り組んだ結果、2023年11月末時点で77.4%を達成しています。

<環境認証別取得カバー率>

物件数 延床面積 延床面積割合
DBJ Green Building認証 Star 4 2 24,876.30m2
Star 3 10 241,309.76m2
Star 2 3 115,050.49m2
15 381,236.55m2 22.9%
CASBEE不動産 Star 5 17 248,929.93m2
Star 4 19 246,689.75m2
Star 3 1 10,224.31m2
37 505,843.99m2 30.4%
BELS Star 5 9 82,038.12m2
Star 4 5 30,593.49m2
Star 3 15 120,471.98m2
Star 2 13 166,518.54m2
42 399,622.13m2 24.0%
環境認証 合計 89 1,286,702.67m2 77.4%
  • 注:2023年11月末時点。対象は底地物件を除く132物件。
    • アリーナタワーはDBJ Green Building認証とBELSの両方を取得しているため、合計欄では重複分を控除しています。
    • Loop-X・MはLoop-X(オフィスビル)とLoop-M(住居)の2棟で構成されており、Loop-XがCASBEE-不動産、Loop-MがBELSをそれぞれ取得しているため、合計欄では重複分を控除しています。
    • 大阪ベイタワーはオフィス部とリテール部でそれぞれDBJ Green Buildingを取得しているため、合計欄では重複分を控除しています。
    • リーガロイヤルホテル小倉・あるあるCityの商業棟「あるあるCity」「あるあるCity2号館」はそれぞれCASBEE-不動産を取得、また「ホテル棟」(オフィス部分)はBELSを取得しているため、合計欄では重複分を控除しています。
    • シャトレ大手町はS棟・N棟でそれぞれBELSを取得しているため、合計蘭では重複分を控除しています。

今後は、これらの目標・指標を用いながら、気候関連リスク・機会を事業戦略に反映させていく考えです。
UURの過年度のエネルギー使用量、CO2排出量及び水使用量のデータについては、こちらをご覧ください。

今後の方針

TCFD提言に沿ったシナリオ分析により認識した気候関連リスクを軽減するための対応策を、MRAでの不動産投資運用に反映させ、具体的なアクションに結び付けていくことを検討していきます。
また、TCFDのフレームワークに沿った情報開示を通じて、ステークホルダーとの建設的な対話を促進し、UURの気候変動に関する戦略の立案・実践に役立ててまいります。

株式会社ディ・エフ・エフ